Y&T

「こうだ、こうでなきゃ」

陽子は決めたボディブローでカタルシスに酔っていた。

「フー・・・」さつきは苦しさを通り越したようで、ファイティングポーズをとる。

「おいで、秀才さん」

そう、陽子は挑発をした。

 

                      *

 

 さつきは姉の陽子以上に秀才だ。

いや、秀才だけではない、要領が生活の全てにおいて良い。

陽子はそれがたまらなく苦痛だった。

陽子が一生懸命頑張っている事を、さつきは簡単にこなしてしまう。

しかも自分と比べられてしまう。

さつきは憎ったらしい。それが陽子の頭の中を常にかき回す。

ところが、今回のボクシング試合となるまでの発端、珍しく、さつきは冷静を欠いていた。

そして陽子は口では怒ったように喋っていたが、わりと冷静だった。

そしてボクシングで決着をつけようと提案をすると、後先考えずに、さつきはOKを出した。

陽子は、部活時間外にボクシング部の男子から色々パンチやガードの仕方を教わっていた。

それが、おざなりであっても陽子には有利になる。

 

                     *

 

「クソお姉・・・」さつきはさすがに二度は陽子の攻撃範囲に飛び込もうとしない。

「こっちから行ってやるよッ!」陽子は咆哮して、さつき目がけて突進した。

パンッ!

一発のジャブが陽子の動きを止めた。

(何で習っても無いのにジャブが!?)

陽子のその戸惑いがスキを生んでしまった。

バキッ!

陽子はさつきからノーガードでフックを食らってしまった。

(やば・・・)

パンチの威力は強烈だったが、精神力でダウンするのをまぬがれた。

「なるほど、こうやってコンボ繋ぐのかぁ」さつきは満足そうにそう言った。

ひとまず陽子は数歩後退した。

(何で?結構練習をやり込んだようなパンチを打ってきた・・・)

そして理解する。

さつきはボクシング教本を買って勉強しているハズだ。

それに加えて、さつきの秀才ぶりはスポーツでも発揮しているのだ。

陽子は思った、(さつきが、ボクシングというものに完全に慣れきるまでに倒さなくてはいけない)と。

そして慎重にと陽子が考えていた時、さつきが襲い掛かって来た。

(やばい!)

 

グワシャッ!

 

やられた!と陽子は思った。確かにパンチを食らっている。

だがあまり威力が無い。よく見るとまぐれにもクロスカウンターになっていた。さつきには大ダメージとなる。

(この一瞬にラッシュしろ!)陽子の頭が心の中でそう叫ぶ。

バン!バン!バン!バン!

右、左、右、左と左右から来るフックを、さつきは思い切り食らう。

「まだまだ!」陽子は叫ぶとさらに右、左・・・・・・とフックを打つ。

一発食らうごとにさつきはうめくような声を出し、咥え慣れないマウスピースのせいで

口の中に溢れ出ていた唾液を吐き散らす。

そしてフックの一発ごとにマウスピースは上の歯からどんどん下がってきてモチを食らっているような

口になった。

「だぁぁぁぁっ!」陽子は最後のフックを思い切り力を込めて打つ!。

 

グシャ!という音とグジュ!が混ざった音がした。

力いっぱいのフックをまともに食らったさつきの口からマウスピースが遂に飛び出す。

びちゃ・・・とそれは跳ねるが、粘性の唾液によって転がりまわるのは阻止されているようだ。

マウスピースが動きを止めた頃、さつきは尻からマットの上にドン!と座り込む形になった。

陽子が自分の息を整え終わってもまだ、さつきはその状態のままで、立てないようだ。

「ふっ」

陽子は馬鹿にするように笑うと、さつきの吐き出したマウスピースを拾い上げた。

「口の中のこんなモノを吐き出して恥ずかしくないの?」

さつきは何も言わずに座り込んだままだ、しかし声は届いているだろう。

「アンタの口の中とか唾液とか、こんなに臭いんだ、何でこんなにツーンとした臭いがするのかしら?」

「ううっ」さつきが呻いた。

「ほら見て、凄い量の唾液」

陽子がマウスピースの歯型がついた面を傾けると、どろりと唾液が滴り落ちる。

「で、立てないようだけどもう私の勝ちでいいかな?」

陽子がそう言うと、さつきは首を左右振った。

「そう、じゃあとりあえず臭い物は臭い所に入れなきゃね。

陽子は、さつきの口に乱暴にマウスピースをねじ込んだ。

 

さつきは立ち上がると、ファイティングポーズをとって、一旦陽子から距離をとった。

「アンタのほうがマウスピース、臭いと思う、吐き出させてあげようか?」

さつきはそう言って陽子に突進して行った。

(しめた!内面は相当錯乱してる!冷静に行けば勝てるッ)

陽子の読みは当たっていた。

さつきは試合運びを考えないほどに冷静さを失っている。

 

グジュッ!

 

さつきがパンチを打つ前に、陽子のストレートが、さつきに決まった。

(これは致命的でしょ)

現在、有利な方に傾いているな陽子は心躍る気持ちだった。

さつきの顔からグローブを外すとき、口からグローブにかけて唾液と血の混じった液体が

糸を引いた。

(今、連続で食らったらヤバい!)

さつきは急いで陽子の脇の下にクリンチをする。

「くっ!離れろっ!」陽子は必死にクリンチを引き剥がそうとする。

さつきは必死に抱きついたまま離さない。

二人は汗を大量にかいており、汗独特の酸っぱい刺激臭がリングのまわりまで

漂っている。それは臭く、それでいて引き付けられる。

クリンチをしているさつきの方がもっと臭いを感じていた。

陽子の脇から漂う、性的興奮をさせるツーンとした臭い。

そしてクリンチを引き剥がされようとする時には腰あたりにしがみつく事になるのだが、女性器

独特の臭いをベースにした香ばしい臭い。

そのせいで、さつきの闘争本能は性的興奮と入れ替わろうとしていた。

(ダメ!ボクシングでおネェを倒さなくちゃ・・・って・・・やばい、濡れてる・・・)

それは外部からは染み出た液体だが、白い本気汁だった。

さつきはクリンチをやめ、距離をとる。

 

一方の陽子は。

(勝てる!絶対有利!)と興奮している。

二人だけのリングには、燃える心と性欲が渦巻いていた。