《DENKO!》
相手は明らかにデンコを挑発している。
「さあ、試合しましょ?それとも自分のスタミナに自信無くなった?」
「い・・・いきなり失礼な奴なのだ!」
それが精一杯、デンコの思いつく切り返しの言葉だった。
二人の間に不穏な空気が流れる。
「おっと、名前言ってなかったわね。私、葉桜薫(はざくら かおる)。よろしくね」
薫が握手を求めるように手を伸ばしてきた。
デンコはあえて手を伸ばさなかった。
その代わりに思い切り薫を睨みつけている。
「へー、いじめられっこのクセに、いっちょまえに睨む・・・か」
薫は嘲笑した。
「試合に一度勝ったくらいでいい気になってるんじゃないですかぁ?ま、いいけどね」
薫はタオルで汗を拭きながら校舎へ向かって歩き出す。
「待つのだ!」
「ん?」薫が振り向く。
「試合、受けて立つのだ!」
「あら、そうですかぁ?じゃあ明日にでもしますか?」
「おう!受けて立つ!」
「そうこなくちゃね」そう言いながら、薫は再度嘲笑した。
そして又校舎の方へ向くと、一度も振り返らずに去っていった。
薫と入れ替わりで万里が走ってくる。
「おい!デンコ!今の奴と試合でもするのか?」
「するのだ、少し頭に来てるのだ!」
「やめとけ、キリないぞ、実はな・・・」万里が神妙な顔つきになる。
「お前が1勝した事で、生意気だとか、デンコのくせに!とか思ってる奴らが
お前を潰しにかかってるらしいんだよ!」
「生・・・意気?」
「そうだ、言っておくが、ここは試合に勝つだけが全てじゃないぞ!友情、愛情もあるが、潰しあいもあるドス黒さも持ってるんだ!」
「・・・」デンコは少し考えてから
「前に出るには、やるしかない」そう自分に言い聞かせるように言い張った。
「ふー」万里はため息をつく。
「しょうがない、試合いつ?」
「明日なのだ」
「じゃあセコンドやってあげるよ」そう言いながら片手で髪をかきあげる。
「頼むのだ・・・それからパンチも少し教えて欲しいのだ!」
「パンチねぇ・・・そーカンタンに習得できるモノでもないしな」
「前の試合みたいに子供の喧嘩みたいなパンチを打つのは疲れるのだ・・・」
「ふむ」万里は顎に手を当てて、斜め上を見ている。
しばらく考えているようだったが、すぐにひらめいたような顔をした。
「教則用ビデオがあったかな?視聴覚室に行けば!」
「おうっ!そのビデオを見て一夜漬けするのだ!」
「一夜漬けってのはしょうがないけど賛成するわ。ってか他に手もないし、一つのパンチを十分習得しただけじゃ意味ないから・・・」
「視聴覚室へ行って来るのだ!」デンコは走っていく、その後ろから
「鍵を職員室で狩りなよー!」万里は叫ぶように言った。
「ん?視聴覚室の鍵??さっき誰かもってったぞ?」K教員はそっけなく言った。
(誰なのだ・・・私にはもう時間が無いのに・・・)
視聴覚室へ急ぐ。
教室は何やら中でビデオを見ているようだ。黒いカーテンで教室が覆われている。
デンコは扉をゆっくり開けて中へ入った。
するとすぐに電気がつく。
「あらあらデンコさん」
薫だ、薫の周りにも数人女子生徒がいる。
「これ見て勉強しようと思ったの?ごめん、私が使うからさ」
薫は見せびらかすようにデンコにビデオテープを見せた。
ラベルに「ボクシングの基礎」とある。
「汚いのだ!」デンコは叫ぶ。
だが、薫と、その取り巻き全員を倒してビデオテープを入手するのは不可能だ。
「ちっ・・・」デンコは舌打ちをして図書室へ走った。
図書室のドアの前には一人の生徒がいた。
デンコを見つけるなり
「今日は使えないんだよねぇ」とニヤニヤしながら言ってきた。
「図書室まで・・・ひ・・・卑怯なのだ!」
デンコは叫ぶが、どうしようもない。
相手は先輩だろう。体も大きく、勝ち目も無さそうだ。
それに明日の試合に響くような怪我をしても大変だ。
「ひどい・・・ひどい・・・」デンコはその場にへたり込んだ。