DENKO!

カーン

Rのゴングが鳴った。

デンコは振り返って一気に攻めようとしたが、相手のフットワークのほうが早かった。

「ほらよ!」ナナコの右フックがデンコを襲う。

どばっ!

デンコにクリーン・ヒットした。

たった一発で、デンコはマウスピースを口から半分外して、ロープにもたれかかった。

「ロープダウン!」

デンコの外れた方のマウスピースの端から唾液がツツーと落ちる。

(あっ・・・)デンコは急いでマウスピースを口の定位置に戻すと、体制を立て直してファイティングポーズをとった。

「弱っ!」ナナコが嘲笑する。

「ファイト!」

レフリーの声とともにデンコがストレートを打つ。

が、リーチがはるかに相手より短い。

ナナコのストレートが炸裂し、カウンターの形になってしまった。

デンコの意識がふらっとする。

「もう終わりか・・・もう一発ストレートで・・・」

スバシャッ!

容赦なくストレートがデンコの顔面をとらえた。

がくがくがくっ!とデンコの足が崩れ落ちる。

だがデンコは倒れない。

ナナコを睨みつけて荒い息をしている。

そしてもう口を切ったのか、血と唾液を口から滴らせている。

「小学生が考えてもこのラウンドで終わりってわかるよね」ナナコはそう言った。

「もう一発のストレートでね!」ナナコの左ストレート!

とっ とデンコが前に出る。

「あっ!」

その一歩は、長いなぎなたの懐に入られるように、ナナコのウィークポイントだった。

「腰を入れて!ストレートなのだ!」

ずぼっ・・・

身長差のせいで、デンコのストレートはナナコのボディに入った。

「うぐっ!」ナナコは一声あげると、デンコを強引に両グローブで引き離した。

「こさくなっ!」ナナコはストレートから軽いジャブに変更した。

ぱんぱんぱんぱんっ!

「うおっ!」デンコはそれに倒れそうになり、両腕をぶんぶん回して体制をとる。

「デンコ、ボディ打たれたから打ち返してみようと思うんだ」ナナコが無防備なデンコに

どぼっ・・・

ボディを打ち込んだ。

「べっ!」反射的にデンコがマウスピースを吐き出した。

びしゃぁぁっ!マウスピースがみずみずしい音を出して跳ねる。

みずみずしいといえば聞こえがいいが、血と唾液を大量に含んだものだ。

そしてデンコは屈みこむように倒れた。

(また・・・ダウンをとられてしまったのだ・・・)

苦しさの中、デンコは立ち上がる。

幸いにも顔中心のパンチでは無かったので、早めに起き上がることが出来た。

「これで負けたら本当に終わりなのだ・・・」

レフリーがデンコの口にマウスピースを入れる。

「ファイト!」

ばしばしばしっ!

ナナコは同じ手で行こうとしたのだろう、ジャブを連打で出してきた。

「負けるわけにはいかないのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

デンコは叫びながら前へ、前へ、パンチを食らいながらも前へ出た。

「くっ!倒れろぉぉぉぉぉぉっ!」ナナコは半ば必死になってジャブを打つ。

じきにデンコの足が止まってきた。

パンチ酔いだ。

(なんだかふらふらするのだ)

「沈めぇぇぇぇぇぇぇぇ!」ナナコがストレートを打ってきた。

 

とん。

 

さっきと同じように、デンコは一歩踏み出した。

どびゅぅ!とストレートがデンコの顔をかすめた。

「これを!なぎなた作戦と命名するのだ!」

そしてデンコは腰に力を入れた一発では無く

パンチをめちゃくちゃに叩き込んだ。

どどどどどどどど!

「くぅっ!」

 

 

「な?面白い試合と思うだすよ」

「そうだねぇ、デンコって娘は試合で成長するのか」

美佐子とKが話している。

「よくいるんだすよ、スパーリングで鍛えて下さいって」

「いるだろうな、お前ほど強かったら」

「だからテキトーに全パンチを打つんだすが・・・」

「デンコはどうだった?」

「初めてだすよ、全パンチ食らって立ってたのは」

「ほー、面白いヤツだな」