DENKO!

カーン

Rの終わりを告げるゴングが鳴った。

「デンコ!てめぇぇぇぇ!」ナナコはデンコに殴られてラウンドを終わるのが腹立たしいようだった。

デンコに飛びかかろうとして、レフリーに必死で抑えられる。

そんなことよりデンコは早く椅子に座りたかった。

青コーナーへ戻ると、果たして椅子はあった。

「ほら、マウスピース出せ」万里が手を出す。

「き・・・汚いのだ(モゴモゴ)」

「アホか、これがセコンドの勤めだって、ほら、出せ」

最後には無理やり万里が口に手を突っ込んだ。

ぬちゃっとマウスピースが血と唾液の糸を引いてデンコの口から外れた。

「1ラウンド終わっただけにしちゃ、やられすぎだな」万里は嫌味でもないような言い方で一言言った。

「ぷっは・・・はぁ・・・はぁ・・・」デンコは息が荒い。

相手コーナーを見る。

ナナコが起こったようにグローブを叩きつけている。

それはそうだ。向こうは赤コーナー。各上なのだから。

格下のデンコにあれほどパンチを食らうとは思っていなかったのだろう。

 

そしてデンコが思うより早く2R開始のゴングが。

「ほら、綺麗にしてやったぞマウスピース」万里がデンコの口に綺麗になったマウスピースを突っ込んだ。

「むぐっ・・・感謝するのだ」

「感謝はいいから、早く試合してこい!」

「わかったのだ!」

 

デンコが出る!

何か違う。

ナナコはガードに徹している。

 

「へへ、やばいだすな、あれだと今までの懐に入ってボディを打つ戦法は使えないだすよ」

「だな、まあこれで試合終わりかもな、このランクの試合は3ラウンドで終わりだしな」

美佐子とKは相変わらず楽しそうに話していた。

 

(これじゃさっきのカウンター食らうだけなのだ・・・自分の武器を考えるのだ・・・)

そしてデンコのとった行動は・・・。

 

ジャブ。ジャブ。ジャブ。

「はんっ!」ナナコが大降りのフックを打つ。

デンコは後ろへ飛びのく。

「逃げて点数稼ごうって計算かよ」

また、デンコはジャブを数発打っては後ろへ下がる。

(スタミナなら走りこんだ私のほうがあるはずなのだ!この作戦でスタミナを・・・)

そう思った輩、背中にロープの感触がした。

(しまった!円を書くように逃げなきゃいけなかったのだ!)

スバシャ!

ナナコのフックがデンコに炸裂した。

デンコの体が少し浮く。

「これで二度と立てないようにしてやるよ!」

ナナコはさらにフックを打つ!フック!フック!

すぐにデンコのマウスピースは血に染まっていく。

そしてフックの度に唾液、血が吹き飛ぶ。

「ロープダウン!」

レフリーは言うが、数発ほど余計に左右のフックをナナコは打った。

「これで立てないだろ!」ナナコは興奮の中、不適な笑顔を見せる。

「う・・・うう・・・かふっ・・・」デンコは血まみれのマウスピースを吐き出す。

(マウスピース・・・血まみれなのだ・・・体もガタガタなのだ・・・)

どん!とデンコが両膝をつく。

「ブホ・・・」血と唾液を噴出す。

そしてそのまま受身をとらずにうつぶせに倒れる。

(ああ・・・寝ていたいのだ・・・もう・・・限界なのだ)

 

 

「お前はあれか?一生残らない傷を作ったのか?」万里が大声で言う。

カウントは進んでいく。

「今立たないと、逆に一生のこらない傷を作るぞ」

万里の言葉が耳に届いた。

体中がギシギシする。

 

「立つ・・・のだ・・・ゴホッ!」

デンコがゆっくり立ち上がる。

左目が塞がっている。

勝ち目の無い戦い。

だがデンコは立つ。

「い・・・今決めたのだ・・・」

「な・・・なによ」ナナコは聞き返す。

「死ぬまで立ち上がるのだ・・・死ぬまで・・・」

ナナコがぞっとする。

カウント8で、デンコは立ち上がりレフリーにマウスピースをねじ込まれる。

「だぁぁぁぁぁぁっ!」デンコがストレートで無謀にも突っ込んで行く。

ぐしゃ・・・

ナナコのカウンターですぐに粉砕。あたりに血を撒き散らす。

「う・・・ふ・・・」デンコは倒れない。

(両目が塞がったら試合中止になる!)ナナコはデンコの右目を攻めることにした。

フック!フック!

デンコの顔にバシバシと当たる。

「ふぐぁっ!」デンコの口から出る唾液がナナコのグローブまで糸を引く。

(決まれ!)焦ってナナコはデンコの右目めがけて左ストレートを打つ。

「やっぱり焦ったのだ・・・」

 

とん

 

デンコは「なぎなた」の懐に入った。

「パンチなんてようわからんのだ!とにかく食らえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

デンコは無茶苦茶にナナコのボディにパンチを打ちまくった。

 

「うぜぇぇぇぇぇぇ!」ナナコが激昂してデンコを両グローブで突き放した。

それはなぎなた二本。

デンコはすぐに懐に又入る。

「よく知らない・・・が・・・アッパー!!!!」

飛び上がるようにデンコはアッパーを打った。

ごっ!

硬い音がして、アッパーは見事に決まった。

「デンコに・・・アッパーされた!?」ナナコにはスローモーションに感じた。

飛んで行く自分のマウスピース・・・。

そしてマットに仰向けに叩きつけられる自分。