《DENKO!》
デンコ、目はウサギのように真っ赤。
遂にあまり眠れなかった。
(今日は零さんの試合の日なのだ)
布団をたたんで、ピカピカのジャージに着替えて廊下へ出る。
しかし廊下に誰もいない。
時計を見ると、もう試合の始まっている時間だった。
「ふぎゃーっ!一時間間違えていたのだ!」
急いで走っていくと、途中で誰かに足を引っ掛けられた。
デンコは顔面から着地。
「おいおい、受身くらいとれよ」
万里だった。
「なぁ、もう零の試合終わっちまったよ」
「あいたたた・・・何で零さんの試合見に行くってわかったのだ・・・」
「なぁに、昨日、私も屋上にいて話聞いてたもんでな」
「で・・・零さん勝ったのか?」
「余裕っしょ、盲目になってから逆に強くなったんじゃね?」
「良かったのだ・・・でも試合どうだった?って聞かれたらどうしよう・・・」
「まあいいから、屋上いかね?」
「万里さんと?何でなのだ?」
「まあいいじゃないか・・・途中でコーラでも買って行こう」
「そんなに暇じゃないのだ」
「じゃああれだ、町へ繰り出そう」
「暇じゃないのだ!」
「言っておく、私は先輩だ、なれなれしく話すな!」キレた。
「この口調は元々なのだ」
「まあ・・・お前だから許すか・・・」
「ほぇ・・・何なのだ?」
「だから、デートするのかしないのかハッキリしろ!」
「で・・・でーとなのか?」
「二度言わすな・・・」
「・・・・・」デンコは石化している。
「零が帰ってきて試合の事聞いてくるぞ、お前見てませんでしたーって言えるか?その前に町へ行こう」
「とりあえず・・・行くのだ」
「よーし、そのままジャージで良し、行くぞ」
「ああ・・・お金持ってくるのだ」
「私が持つ。大丈夫だ」
〜カフェ黄金鳩〜
「なんか高そうなのだ・・・」
「なぁに・・・すきなの食えよ」
「それに・・・」
「なんだ?」
「まだ万里さん・・・名前しか知らずに謎の人物なのだ・・・」
「くくくっ!」
万里がはじめて嬉しそうに笑った。
「私はそうだな・・・鹿渡 万里(かど ばんり)と言う」
「名前分かった、先輩なのわかった。でもなんでデートに誘うのだ?」
「お前とデートがしたかったからだ」
「でもレズには興味も何も無いって言ってたぞ」
「まあ・・・な・・・パフェ遅いな」
「まだなにも注文していないのだ」
「万里は顔を真っ赤にして店員を呼んだ」
「ゴールデンパフェの中二個頼む」
「いつから私の事を知っているのだ?」
「ん?お前がグランドを走り出してからかな?」
「ふわ、あの日からなのか」
「まあ、走りこんだだけで強くなれると思ってるとは、馬鹿なもんだ」
万里が冷静に、外の景色を見ながら言う。
「なんでその馬鹿とデートがしたかったのだ?」
「えーと、パフェ遅いな」
「遅いな、で、なんでデートがしたかったのだ?」
万里の顔がまた赤くなり、指で机をトントンと叩き出した。
「万里さんはレズに興味が無いはずなのだ」
「ないない!ぜーったいない!」
「じゃあ何で赤くなってるのだ?」
「・・・帰ろうかな、お前一人で全部食え」
「ちょっと!待つのだ!」
「何だ?」
「突っ込まないから食べるのだけはいっしょに食べるのだ!」
「ん?そうか、じゃあ食べるか」
すぐにパフェは運ばれてきた。
「うおお、試合のギャラがいっぺんに飛びそうな豪華なパフェなのだ!」
「ああ、滅多に食えないだろう、食っとけ」
万里が急いで食べる様子を見て、万里は冷めた顔でそれを見ていた。
(万里のバカバカ!素直になれ!)
万里は葛藤しているが、顔に出ない。ただじーっとデンコを見ている。
「あ・・・あのなデンコ・・・私はだな・・・お前を・・・」
言いかけた所で、後ろから声がする。
「デンコちゃーん!」
「よっ、デンコ」
零と美佐子だった。
チッと万里が舌打ちをして立ち上がった。
「じゃあ私は帰る、あとは楽しくやっとけ」
「?」
万里が去るのを、デンコは不思議そうな顔で見送った。
「デンコちゃん、私の試合、どうでした?」
ぎくっ!
「あ・・・ああ・・・実は万里さんに連れてこられて試合見てないのだ」
「ひどいですね♪」
目が見えないはずの零、だが視線が痛い。
「悪かった・・・・のだ」
「おーい、ゴールデンパフェの中、2個」美佐子が注文する。
「いやー、でもアウトローで一人の万里が他人を連れ歩くなんて珍しいだすなぁ」
美佐子が不思議そうに言う。
しばらくしてパフェが運ばれてくる。
美佐子はハンドバッグからお菓子を取り出してデコレーションを始めた。
「そ、そんなことをしては怒られてしまうのだ」
「え?この町ほとんどのショップでわたす、公認なんだけど」
「お菓子王〜」零が拍手をする。
「お菓子王と零さん、食べ終わったのでそろそろ練習に戻るのだ」
「え?私の勝利を祝って、色々と話して行きましょうよ」
「そうそう、Kの悪口でも言って〜」
美佐子がそう言って外を見ると、万里がイライラした様子でその辺をウロチョロしている。
(ははぁ・・・万里に惚れられただすな・・・デンコ)
「まあいいだすよ、練習も大事だすから。」
「ええぇ?いいんですかぁ美佐子さん、私の勝利の・・・」
「まあ夜に屋上で話でもすればいいじゃん♪」
「あー、そうですね♪」
「?」デンコはすんなり話が通ったのでまた不思議な顔。
店を外に出て歩いていると、後ろから声がする。
「おーいデンコ!」
万里だった。
「万里さん、どうしたのだ?」
「いやー、ショッピングして帰る所だったんだけど、偶然だなぁ」
「それは偶然なのだ、私は帰るところなのだ」
「そうか、私も帰るところだ、いっしょに帰るか」
すぐに学校へ着いた。
「じゃあ、練習に走りこむのだ、何だかよく分からなかったけど、パフェごちそうさまでしたのだ」
「ああ、ああんなもんでよければな・・・」
「それじゃ、なのだ」
「それじゃ・・・」
走っていくデンコに、さびしそうな顔をして万里は見送る。
「で・・・デンコ・・・」
デンコが急ブレーキをかける。
「なっ何なのだ?」
万里が迫ってくる。顔は怒っているようだ。
「何か悪い事したのか?顔が怒ってるのだ」
「パフェがまだ付いてるぞ」
「あ・・・ああ・・・付いてたのか、親切にありが・・・・」
万里がデンコの後頭部に手を回してきた。
「ここに付いてるぞ」
そう言って
キスをしてきた。
「んっ!」
デンコには初めてのキスだった。
しかも相手の舌がぬるっと入ってくる。
「んーっ!」
デンコが抵抗して万里と離れる。
「・・・悪かった・・・」
万里はスタスタと歩いてどこかへ消えた。
「アイスの味の・・・キスだったのだ・・・」
デンコは走るのをやめて、その場にふにゃりと座り込んだ。