《祭》
「ね、聞いてます?信夫さん?」
いつもの学校の帰り道。
「あ・・・ああ聞いちょる・・・」
「最近信夫さん夢うつつな事が多いですね」静子は笑顔を見せる。
信夫にはその笑顔が何故か心に圧し掛かってくる。
「あ・・・ああ・・・そういや」
「そういや?」
「学校きっての祭りがもうすぐじゃの」
「あ、そうですね、バスケ部は何やるんですか?」
「食いモンかな?何度も案が出ては消えとるよ」信夫はハハハと笑った。
「そういえばボクシングやる人もいるみたいですしね」
静子が信夫の顔を伺うように覗いてきた。
「あ・・・ああそうじゃった(やぶへびじゃったかの)」
「私、空手なら段持ってるんで出ちゃいましょうか」
笑顔を見せる静子だが、信夫にはそれが本気に聞こえた。
「女がそんな事、簡単にしちゃいけんぞ」信夫はごまかすように笑った。
「香奈さんはいいんですか?やっても」
ドキッとした。信夫の心臓が跳ねるように鼓動し始める。
「さ・・・さあ・・・ええんじゃないんかの・・・」
「幼馴染でもですか?」
信夫の心がどんどん裸にさせられる。
「勝ったら、もっとこっちを向いてもらえるんでしょうか」
「向くって・・・俺は静子一本で・・・」
「嘘っ!」
静子の顔が一瞬怒りに変わった。
信夫はあまりの剣幕に言葉が出なかった。
しかしすぐ静子はいつもの笑顔に戻る。
「信夫さんが好きですから、私」いつもの笑顔だ。
「ですから・・・何でもするんです・・・何でも」
そう言うと静子は走り出した。
「静子!ちょっと待てぇや!」信夫は叫ぶが、後ろを振り向くこと無く静子は走っていった。