《祭》

「何?しず・・・こさんだっけ?」

静子は香奈を放課後、屋上に呼び出していた。

「名前知ってるんですね・・・私の」

「ああ・・・何となく」ポリポリ香奈は頭を掻く。

「私も今日、祭のボクシング競技に参加させてもらうように書類を提出しておいたの」

「あ・・・じゃあ私の相手は静子さんね」

 

「結構とぼけるのが上手ですね」

ポリポリと頭を掻き続けている香奈に、静子がずいっと寄って顔を覗き込む。

「え?」

「はっきり言っていい?」

「う・・・うん」

「信夫は私のモノ」

「・・・」

「いい?これは私とあなたの意地の勝負」

「祭りだし、そんなに力いれなくても・・・」

「いいえ、女の意地であなたを叩き伏せるわ、空手もやってたしね」

「あ・・・そう」

「いつまでとぼける気かしら?香奈さん」

「とぼけるも何も・・・」

「ま、祭りまでもう一週間切ったから、もうすぐ分かるわ。じゃ」

静子が踵を返す。

「そうそう香奈さん?」

「ん?」

振り返りざまに静子がパンチを放ってきた。

ゴッ・・・・

 

ブッ・・・と香奈は自分の鼻血が出るのを感じた。

「げほっ・・・げほっ・・・」体をくの字に曲げ、香奈は鼻血を地面にポタポタと垂らす。

「あら?そんなもんだったんだ・・・」

言い残して静子は去った。

 

「鼻血・・・・」

香奈は冷静にポケットからティッシュを出して鼻を綺麗に拭いた。

ティッシュを投げると、風にまかれてそれは学校の裏へ飛んで行った。