《祭》

酒井静子は空手道場を営む厳格な父親の元に育った。

母親は自由に育てたかったが父親はひたすら空手というもので静子を束縛した。

小学生の時には少し遅く帰っただけで父親にひどくぶたれた。

このままでは歪んだ人生を送ってしまうかもしれないと母親はいつも心配していたが

父親に意見するのは怖くて出来なかった。

母親もまた、父親に手をあげられている一人だったからだ。

静子はひどく暗い子供になってしまった。

みんなのように遊びたいが、時間厳守。

そしてその時間には厳しい空手の稽古が待っていた。

しかし父親の誤算がそこにはあった。

静子には才能が有り過ぎたのだ。

中学に上がると、道場の中では一番強くなってしまった。

 

そしてある日、道場で父親と言い合いになり、試合のような形になる。

結果、父親は半殺しの目に合う事になってしまった。

 

その日を境に父親の威厳は無くなった。

静子は女友達と心ゆくまで遊べるようになったのだ。

 

さらにそこで事件は起こる。

近所の不良が女友達に絡んできたのだ。

静子はためらう事無く、不良をボコボコにした。

そこで静子は、己の力の凄さ、そしてこれを使って何でも自分の思うがままに人生が動くと感じた。

中学も卒業間近になると友達は山のように増えた。

滅多に腕力は使わないが、ここぞという時は空手で事を収めてクラスの女子に尊敬されるまでになっていた。

人生は拳一つで思い通りになる。

逆に重い通りにならない場合は、陰湿な嫌がらせをするまでになっていた。

 

高校に入り、静子はすぐに自分に降りかかる火の粉を振り払った。

思った以上に男子に目を付けられ、それに嫉妬した、タチの悪い先輩にからまれ、返り討ちにしたのだ。

怖いものはない、思い通りに行く。

その二つを心に秘め、伊達眼鏡をかけてクラスではおとなしい存在に落ち着く事にする。

それは、いつでも自分が手を下せば自分の思い通りになると確信していた為である。

 

だが、高校もサッと通過して大学にでも入って、いい男を捕まえようと思っていた矢先、信夫に出会う。

一目ぼれだった。

そしてこっそりと信夫について調べている矢先に、加奈の存在が浮き上がってきた。

静子にはそれが目障りだった。

叩きのめして信夫を自分の彼氏にしよう。

そうだ、叩きのめせばいいんだ。

それをコンセプトに、静子はさりげなくを装って信夫に近づき、加奈を叩きのめすプランを立てていた。

それが静子。