《祭》

「ふんっ!」

香奈は部屋でフックの練習をしていた。

グローブは注文済み、自分が先に名乗りを挙げたので色は赤。これで押し通すつもりだ。

マウスピースは白でお湯に着けて歯がたをとるタイプ。

「下はブルマでええじゃろ」

自分で次々と決めていく。

「後は対戦相手じゃね!」

これで女の子っぽかったらモテモテなルックスの香奈だった。

ただ、性格もサバサバしていて、言いたいことを言う方なので女子グループからは孤立している。

勉強もよく出来る。人の悪口も気にしない。

とりあえずマウスピースを口に入れて練習をしてみる。

「これツバでベトベトになる・・・何でこんなもんが必要なんじゃろ?」

 

 

「香奈ぁ」

放課後、勉強を一人でしている香奈の後ろから信夫が話しかける。

「ん?何?」

「いや、勉強しとるんか?熱心じゃの」

「うん・・・」

香奈は勉強を続けている。

「わしゃ適当に私立にでも行くわ」窓によりかかって信夫は言った。

外は夕日が差して、生徒がまばらまばらに帰宅している。

「そっか・・・」一言で返すと、香奈は勉強を続ける。

「愛想ないのぅ」信夫はくるりと香奈の方向を向いた。

 

 

「あのー」

か細い女子の声がした。

めがねをかけた女子が教室を覗き込んでる。

「こちらに篠崎・・・信夫さんっていらっしゃいますか?」

「・・・オレ?」

 

「あっ」女子が赤面する。

「?」信夫は鼻をポリポリ掻く。

「あの・・・あの・・・お話があるんでちょっと・・・」

「何じゃ?ええけど・・・」

信夫がポケットに手を入れて教室を去ろうとする。

「のぶお!」香奈が信夫に声をかける。

「あん?」

「部活は?」

「今日は休みじゃけ」

信夫は教室を去った。

 

「ふーん」

しばらく教室の出口を香奈は見ていたが、又勉強を始めた。