《アフター・ザ・ラストバトル》
ラストバトルが終わって、小百合は卒業してしまった。
美由紀は燃え尽きたつもりだったが、何となく心に穴が開いたような感覚がする。
ふらふらとあてもなく歩いていると、練習用のリングがある部屋に着いた。
新入生が8名ほど、リング内でロープに背を向けておどおどしながら立っている。
「そらっ!これが伝統行事だよっ!」
各新入生に一人ずつ先輩が付いて、ボディを打つ。
ドムッ・・・ドムッ・・・
順番に・・・順番にマウスピースを吐き出して、新入生達が腹を抱えて倒れこむ。
その吐き出されたマウスピースを先輩達は拾って、自分の袋に入れていた。
そう、この学校は、マウスピースの取り合い。試合で勝って集めて、それで初めて進級できる。
美由紀はこの学校に入りたての頃の、同じリンチをボーッと振り返っていた。
「みっ!美由紀さんだッ!」
上級生の一人が、入り口にもたれかかっている美由紀をグローブで指した。
美由紀は黙ってのそのそとリングにあがる。
「まあ、弱肉強食だからね、ここは」そう言ってボディを打たれてのたうちまわっている新入生を見た。
「あんたらもちょっとは抵抗しなよ・・・って私の時も抵抗しなかったけどさ」
そう言いながら美由紀は左耳を小指でホジホジした。
「返してやりな」
美由紀がふいに言った。
「こんなもん、今年で中止だ、返してやりな」
相変わらず耳をホジホジしている。
「出来ませんね!」
先輩の一人がずいっと美由紀の前に出てきた。
「んー、まあ尊敬される先輩じゃないし、言うこときかなきゃきかせるまでかな?」
「美由紀先輩、こっち八人なんですけど・・・どうです?下克上ってことで全員に相手してもらいたいんですが」
「あー、めんどくさいから八人同時に来ていいよ。準備してくらぁ」
美由紀は更衣室に行って着替えてきた。トップレスに下はジャージ姿、そして大事なマウスピースを咥えている。
リングに再び上がると、美由紀はファイティングポーズをとった。
「なんか気分がモヤモヤしてるんだよね・・・まあ運が悪かったと思ってかかってきたら?」
美由紀がグローブでチョイチョイ手招きをして挑発する。
(誰が行く?みんなでいく?囲む?どうする?)
先輩達は作戦を考えているようだ。
ガキッ!!!
べちゃ・・・
「へっ?」
先輩の一人の胸に唾液まみれのマウスピースが張り付いた。
見ると、八人のうち一人が倒れている。
美由紀の恐るべき速さのストレートだった。
「油断しちゃだめだよ、リングの上なんだからさ・・・あっと七人〜♪」