《アフター・ザ・ラストバトル》

美由紀は、朝起きて花壇へ向かったが、零の姿は見えなかった。

「もう、学校やめちゃったのかな」

屈んで花を見てみる。零の目にはどう写っていたのだろう?

「おはようございます♪」

ふいに後ろから声がした。零だ。

「あ、おはよ、あれ?眼帯とかしてないの?」

「はい、もう完全に見えないですから治療の必要もありません」

「よくここまで一人で歩いてきたね」

「習慣って怖いですね、どこをどう歩けばいいかわかっちゃいます♪」

「なんか私のパンチを食らった次の日にしてはえらく元気そうじゃない」

「はい、丈夫なんです♪」

「小百合に負けてマウスピース一個失って、あんたに勝って一個増えた」

「ですねー♪また卒業試験にチャレンジできますよ〜」

「なーんかやる気でない」美由紀は頭をぼりぼり掻きながら言う。

「やる気が出ない時は日向ぼっこしてればいいんですよ」

「そうだねぇ・・・最近はトレーニングばっかりでのんびりしてなかったから、今日はのびのびするかーっ」

「付き合いますよ♪」

二人はのほほんと太陽を浴びながらまったりしている。

「で、そろそろ学校・・・やめる?」美由紀が恐る恐る聞いてみた。

「それがー、何というか、しばらくしたらまた選手に戻るかもしれません」

「は?両目見えないのに?」

「片目が見えない時点で、そのハンデが聴覚にいっちゃってたみたいで、両目見えなくなったのになんかスパーリング出来るんですよね」

「まじかよー」

「ええ、天才かもしれません♪」

「目の見えないボクサーなんて聞いたことない」

「知らないんですか?目の見えない写真家もいるんですよ?」

「へぇー」

話していると、向こうから誰かがやってくる。

よく見ると・・・

「草野さん?」美由紀は声が裏返った。

実力中の実力派、卒業ももうすぐと言われている草野 美佐子だ。

ルックスはとても可愛く、後輩からも慕われている。

「あ、草野さん、おひさしゅうです」零が挨拶をする。

「おひさしゅう♪」

美由紀と草野はこうやって近距離で対話するのは初めてだ。

「あ、美由紀さんも、おひさしゅう♪」

「あ・・・ああ。おひさしゅう(話したことないのに)」

「美由紀さんあれだー、あのー・・・なんだっけ」

美佐子は一人で頭を抱え始めた。

「ゆっくり思い出したらいいですよ♪」と、零のフォロー。

「アー思い出した!美由紀さん、卒業試合、私とやんない?」

「え?まあ・・・先生に相談してみるけど・・・」美由紀はいきなりの試合申し込みに驚いて動揺した。

「やっぱりさぁ、卒業試合だよね♪メインイベントだすよ!」

(だす??なんか変なところで方言はいってる・・・)

「美由紀さん、どうしただすか?私真面目だすよ?」

ロリ声で「だす」を連発する。

「あ・・・ああ、ちゃんと真面目に聞いてる」

「それからえっとー・・・なんだっけあのー・・・うーん」また美佐子が頭を抱えだした。

「いつもこうなんです、美佐子先輩。すぐ話忘れちゃって」零がほのぼの笑う。

「ああ、思い出した!零、目はどうなった?」                                                            

(まず最初に聞け・・・)美由紀は白い目で美佐子を見る。

「見えません♪」

「やっぱりな、まあいいことあるって♪・・・そのうち」

(なーんかこの二人の波長って合ってるなぁ・・・)美由紀は、自分が蚊帳の外のような気がしてきた。