《アフター・ザ・ラストバトル》
「プレッシャー・・・緩和しに来たよ・・・アハハ、何て顔してるの」
確かにそう聞こえた。
小百合の声だった。
しかし目の前にいるのはK。
「なにボーっと立ってるの、そろそろ寝ないと明日もたんよ?零に渡した薬飲んだか?」
「あ・・・いえ・・・まだ(小百合がいるわけないか)」
「なんだ?」
「ちょっと考え事ですよ〜」わざと軽めに美由紀は呟いた。
「試合前で興奮もするだろうから、まあ今すぐってのもアレだな。はやめに寝ろよ」
「は〜〜い」
Kは戻っていった。
「あー、小百合。あんたならどう戦う?どんな戦術で?」
頭をくしゃくしゃ掻き毟る。
「ちがうちがう!これは私一人の戦いなんだ・・・」
そう口に出すと、零という話し相手がいるだけで、美佐子が羨ましくなって来る。
だがそれを考えれば考えるほど、自分は孤独だと思い知らされる。
小百合と競い合うように強さを求め求め、そしてここまで来た。
友達をたくさん作って町へ遊びに行く生徒を軽蔑すらしていた。
(がんばったのに、こんな制裁ないよ・・・)
しばらく町の明かりを見ていると、滲んでくる。
気合十分で試合に臨むつもりだった。それが今は目にうっすら涙を浮かべて町をぼーっと見ているだけ。
「眠れない・・・んですか?」
後ろから声がする。
目の涙を手でゴシゴシと払って、振り返る。
「あのー・・・寝れないんですか?」
小百合との卒業試合でセコンドをしてくれた後輩だ。
「あ・ああ。アンタか。」
「お部屋を訪ねたら、いらっしゃらないようだったんで、探して回ってました」
「え?なんで?」
「明日、頑張って下さいって言いたくて・・・」
美由紀は、少し笑顔になって、フーとため息をついた。
「あれ?ご機嫌損ねましたか?」
「いいや、あんたも頑張れよ!」
美由紀がゴシゴシと後輩の頭を撫でる。
「ありがとうございます・・・でも美由紀先輩みたいに卒業試合になると私・・・もうパニックになっちゃうかも」
そう言って後輩は俯く。
「大丈夫。私もかなーりパニックだから」
「えっ?美由紀先輩もですか?」
「私だってフツーの人間だよ?心臓の大きさも、たぶんフツー」
「励まして逆効果だったかな・・・」後輩は俯いたままボソボソ話す。
「私の試合だからね、私が頑張るしか無いんだよ」
美由紀はまた町の方を向く。
「明日辛くても、明後日には終わります!」
後輩は精一杯力を込めて叫んだ。
「・・・そうだね」
美由紀はポケットから睡眠薬を取り出した。
「明日がどんな日になるか分からないけど、その日になりゃ分かるか」
ポイと薬を飲み込んだ。
「ありがと、いい言葉もらったよ」
美由紀は自分の部屋へ戻ろうとした。
後ろから後輩が心配そうに見ていたが
「送ります」といって付いてきた。
そして美由紀は部屋のベッドに横になる。
(あんなに想ってもらって、送ってまでもらったのに・・・孤独感が消えない)
美由紀は目を閉じた。
そして一時間程、声をあげずに泣いた。
その後の事は覚えていない。