《アフター・ザ・ラストバトル》

朝・・・か?

何だか楽しい夢を見ていた気がする。

少なくとも試合の無い世界の夢。

美由紀はゆっくり体を起こす。

睡眠薬のおかげか、必要な睡眠はとれたようで頭はクリアだ。

そのせいで試合の事を真っ先に考えてしまう。

ベッドから立ち上がって鏡を確認すると、泣いて寝たが目は腫れていなかった。

「負けて万年卒業できない生徒にもなりたくないし・・・勝ちたい・・・けど」

その「けど」が大きくのしかかってくる。

Kがドアを開いて飛び込んできた。

「おーっおはよう!今日は生徒たちを湧かしてな!たのむよ!」

「あーK先生、おはようございます」

「ひょっとして寝てたか?今まで」

「寝て・・・ました」

「おいおい、もうプログラム通り試合は進んでるんだぞ?着替えて控え室で待ってろよ」

「はい・・・」

「おっと、ちょっとナイーブになってるな、退散退散」

Kがドアから出て行く。

「はぁ・・」

美由紀は又、ベッドに戻ってうつぶせになった。

そこへまたドアが開く。

「試合は10:30から!急いで!」

「ふぁい」

「ふぁいじゃないでしょう!美由紀!」

「んー」

美由紀が顔をあげた。

逆行の中、小百合がジャージ姿で立っている。

 

 

「昨日の夜行に乗って着いたばっかりだけど・・・遅れてごめん!」

「うぇ?小百合??」

 

「今日の青空美由紀の卒業試合のセコンドを勤めさせていただきます、サユリです、よろしく」

そう言って小百合は微笑んだ。

 

「はいはい、着替えて着替えて」

母親のような口調で、美由紀の着替えを手伝う小百合。

「大丈夫だって!自分でできるって!」

 

久々に小百合と手が触れ合い、ぬくもりを感じる。

「できるって・・・大丈夫だって・・・私は・・・」

涙声になるのを制御出来ない。

ぽろっ・・・ぽろっと涙が落ちる。

 

「しょうがないなぁ・・・一回だけだよ」

 

 

小百合は美由紀を抱擁した。

美由紀は肩を揺らして泣いている。

「怖かった?」

「うん・・・怖かった・・・一人で・・・怖かった・・・」

「そう・・・」小百合は美由紀の頭をなでながら、こう言った。

「陽はまた昇る」

「!」

小百合のその言葉に、美由紀はある事を思い出していた。

 

当時は美由紀も小百合も低学年でまわりは敵ばかり。

ある日小百合は滅多打ちのまま負け、泣きながら自分の相部屋に戻っていた。

廊下を歩いていると、前方に、旗を手に立ちふさがっている美由紀がいた。

「小百合ッ!」

「みみみ、美由紀?」

美由紀が旗を振る。真っ白い旗に墨汁で書いた文字

 

陽はまた登る

 

精一杯振りながら。

「小百合っ!陽はまた昇る!がんばれっ!!がんばれっ!!!」

美由紀もまけ試合だった。顔がはれ上がっている。

「負けるなっ!あきらめなければ!陽は!また!昇る!って何をする教員ども!ぐわぁぁっ!」

結局叫び声が大きすぎたために職員室から教員が来て、美由紀は取り押さえられた。

 

 

その時の言葉。

「覚えてた?その言葉を今、美由紀に今。返す」

美由紀の嗚咽が止まって行く。

ゆっくり小百合は抱擁をといた。

美由紀は希望のある笑顔に戻っていた。

「思い出した・・・ありがとう・・・私・・・」

「頑張ろう!美由紀アンド小百合コンビに敵無しって事をみんなに見せ付けちゃおうよ!」

 

               →次回より アフター・ザ・ラストバトル「アナザー・ザ・ラストバトル編」開始