《アフター・ザ・ラストバトル  アナザー・ザ・ラストバトル》

試合は終わった。

 

控え室に戻り、美由紀は横になる。

「あぁ・・・」やっと横になれたのが楽なのか、美由紀は小さく唸った。

しばらくすると小百合が部屋に入ってきた。

「一応、リングの掃除手伝っといた・・・」

「ああ、小百合わるいね」

「ここ卒業式ないから、すぐに出て行ってオッケーだって」

「うん・・・」

 

「・・・・・・・」

「・・・・・・」

お互い長い沈黙。

「あーやっぱ、小百合がいてよかったなー」

美由紀はそう言って、少し赤面する。

「ふふっ」

小百合はただ、美由紀の方を見て笑った。

自分の方が子供のような気がして、美由紀は場が悪くなり、咳払いを一つする。

そんな空気の中、K教員が入ってきた。

「おつかれさん、おふたりとも」

「どもー」

「おひさしぶりです」

「まあ硬い挨拶は抜きにしてと・・・美由紀、どえらいヤツに勝ってしもうたなぁ・・・」

「どえらいやつ?」

「あいつな、草野美佐子。学校入って無敗。それも全試合圧倒的に」

「ほぇー、そんな凄いヤツだったんすか」美由紀は素直に驚く。

「その無敗が集中治療室行きだぞ!?何ちゅうやつだ」

Kはそう言ってため息をつくと美由紀の寝ているソファの横に座った。

「今回は試合の責任、私だったからヒヤヒヤしたわ・・・こりゃ死人が出ると思ったから途中で

ラウンド終了宣言したんだ」

「ごくろうさんです」美由紀は興味無さそうに言い放った。

 

「・・・・卒業だな」

Kがポツリと言った。

「はい・・・」

 

「色々あったな」

「はい・・・」

 

「しんどかったろ?」

「はい・・・しんど・・・しんどかったです」

美由紀は横になったまま涙をポロポロ落とした。

 

「ここでても、また遊びに来いよ」

「はい・・・来ます・・・」

Kはそのまま部屋を出て行った。

その後姿。

小百合は、Kが目をこすっているのを見た。

泣いていた。

 

「なんかまた泣いちゃったよぉ」美由紀が涙目のまま、天井を見ている。

「うふふっ」小百合はひっそりと笑った。

「じゃ、美由紀、今度の休みの日でも遊びに行こうね!私、仕事があるから帰るね」

「はーい、ありがと!」

美由紀と小百合はガッチリと握手した。

小百合が出て行くと、今度は外からたくさんの女子生徒が中の様子を伺っているのが見えた。

「?」

ソローリと女子生徒達は入ってくる。

手に花束を持った生徒が、顔を赤らめてそっとそれを差し出してきた。

「あの・・・あのあの・・・これ・・・なんていうか・・・あの・・・」

「ありがと♪」美由紀は花束を受け取って、ソファから起き上がった。

「あの・・その・・・えーと・・・」その生徒は何かを言いたそうだ。

後ろから「言っちゃえ!」「一皮剥けろ!」と声がする。

「あの・・・あのだな美由紀先輩・・・私はだな・・・す・・・す・・・す?」

「す?」美由紀は首を傾げる。

「好きなんだな!先輩の事!すっごく好きだったんだな!」

恥ずかしさにその生徒は涙目になっている。

「だから・・・返事を・・・聞かせてほしいのだ・・・」

「何の返事?」

「好きだから・・・あの・・・つきあって・・・ほしい・・・のだ」

「あー・・・まいっちゃったな」美由紀は頭をぽりぽり掻く。

しばらく考えた結果

「この学校を卒業出来たら、また告白しに来いよ」

そう言うと、その生徒の顔がぱぁっと明るくなった。

「うんうん!スピード卒業するのだ!それまで美由紀先輩!結婚せずに待ってるのだ!」

うおおおおと叫んでその小さな生徒は外へ走っていった。

「あの・・・名前・・・くらい聞かせろよ・・・いっちゃった・・・」

「銭林デンコですよ、まあ覚えといてあげて下さい」一人の生徒がそう言って苦笑いをする。

 

 

「さてと・・・」美由紀はフラッとしながらも立ち上がる。

「倒した相手の面でも見に行ってやろうかね」

ふらりふらりと控え室を出る。

すると廊下でデンコが「うおおおお」と叫びながら帰ってきた。

「美由紀先輩!私の名前!デンコ!言うの忘れてたのだ!」

「さっき聞いた、落ち着け」美由紀はデンコの額にでこピンをした。

「でこぴんっ!」デンコは倒れた。

そしてすぐに立ち上がって

「強くなるぞぉぉぉ!」といいながらどこかへ走っていった。

「なんか走り方○ックマンみたい」美由紀は一人でウケた。

 

美由紀はふと、両親の事を思い出した。

元はといえば金がない為にこの学校に入れられたのだ。

大きい試合にも出て、それなりに潤っているハズだ。

 

美由紀は、両親に決別の手紙を書いた。

「これからは、私の生きたい人生を生きるね」

そう独り言を言うと、設置してあるポストに投函した。

 

 

「さて、美佐子と零にも・・・ってなんか疲れたな。負けた相手に挨拶に行くのも控えろってよく言われるし・・・」

美由紀は二人には会わずに外へ出た。

「とりあえず仕事探して・・・住むところ探して・・・そのへんは小百合を頼るか」

美由紀の一人歩きはこれから始まる

それは、一歩から。

                                     END