《うるど》
「でさー、その貧乏神がさぁ・・・」
うるまが、バイト先の愛染愛子に貧乏神の事を話している。
「楽しいですね、貧乏神が本当にいるとは知りませんでした♪」
うるまは愛子をバカオッパイと言っているが、実際に嫌いではない。
どんな話題を振ってもキラキラした目で話にノってきてくれるので、ヒマな時には楽しい。
愛子には夢が無い。
実際に自分という自我も無いのかもしれない。
親は理想の将来の人間像を愛子に押し付けて育てた。
「人には愛想良く」
そこがポイントだったのかもしれない。
誰とでも打ち解けるし、ナンパも良くされる。
だがいつも最後には一人にされる。
でもそれが苦では無くなってきた。
孤独に慣れ切ってしまった。
それにここのバイトにいれば店長がいる。
店長はいつも優しくしてくれるし抱いてくれる、それにお小遣いまでくれる。
彼女はそれが「間違っていない自分の生き方」だと、そこだけは信念を持っていた。
そして・・・
「うるまさん、実は私にもお話があるんですよ」
「え?何?」
「ウチにもいるんですよ」
「マジ?貧乏神が?」
「いいえ、死神さんです」
「えっ・・・」
「鎌は持ってるけど、イケメンなんですよ♪」
「えーっ!やばくないそれ?」
「実際、ヤバいですかね」愛染はゆるく笑った。
「誰か狙われてるの?」
「私みたいです♪」
「なんかこう、有効期限とか言われた?」
「今日の夜あたりにでもって言ってましたよ」
うるまは急な展開に質問も出来なくなった。
「うそですよ♪本気にしちゃだめです」
「はぁーバカかよー」とうるまはため息をついた。
だが、それは愛染愛子、一生に最後の大きなウソだった。
はねは、午後からのスパーリングに気合を入れ、家を出た。
(きっとボコボコにされるけど、想いは伝える!)
貧乏神はこれから起こる事を心配しない。
長い人生、何とかなると思っているからだ。だからはねも、いいように人生が進むようになるだろう。
「昼寝ってのもしてみるか、ななが帰ってきたら起こしてくれるだろう」
貧乏神は一言言うと、座って昼寝を始めた。