《うるど》

「さーて、スパーリングを今日もやりますかね、はね」

うるまは腕をぶんぶん振り回しながら明るく言う。

「・・・」

「はね、何黙ってんの?」

「うるま」

「ん?」

「手加減ナシでやってくれる?」

「は?なんで?」

「こっちから行く!」

はねは勢いよく飛び出してうるまにパンチを打つ。

「わっ!あぶなっ!」

うるまは無意識にカウンターを打っていた。

ぐしゃっとはねの顔面を歪ませる。

       *

 

「どうだ?今晩死ぬ気分ってのは」

死神が愛子に話しかける。

「お父さんもお母さんも私のことあきらめてるみたいだし、実際私自信もあんまり考えることはないです」

「ほー、冷たいご両親だねぇ」死神は自分の鎌を指でなぞりながら言った。

「でも、何でもいいからやっておけば良かったかなって、ちょっと思ってるけどね・・・」

「遅かったなぁ。まあ俺の成績の為にも死んでもらわなきゃな」

「あ〜あ、なんで産まれてきたんだろうね私」

「ま、死神流に言えば死ぬために産まれてきたんだな、きっと」

「私が生きる気力無かったから私の魂を取りに来たの?」

「うん、そう。道理に合ってるじゃねえか」

「怖い・・・」

「今更怖いって言われてもなぁ、鎌ピッカピカに研いでいいカンジだしよぉ」

「違うの・・・生きる希望が沸いてくるのが怖い・・・夢が出来ちゃうのが怖い・・・だから」

「だから?」

「今すぐ殺して・・・」

「ああいいよ?痛くないからな」

ガシッ!

突然死神が、愛子の父親に抱きつかれた

「何すんだお前・・・ちょ、動けねえ」

「逃げなさい、愛子」

父親はゆっくりとそう言った。

「お父さん?」愛子は驚いた。いつも寡黙で厳格な父親がする行動ではない。

「お父さん、いいよ、私は死んでもいいの」

「父さんな、いや母さんもだ。お前の育て方を間違ってたみたいだ」

「え?」

「何も考えずに逃げなさい、生きなさい、世界はそうそう捨てた物じゃあないぞ」

傍で母親は様子を見てオロオロしている。

「親の言う事が聞けんのかっ!」

父親の怒鳴り声で愛子は家から飛び出した。

 

         *

マットの上には血が滲み、マウスピースが転がっている。

それは全部、はねのものだった。

「うるま・・・まだ・・・」

「はね、もう殴れない・・・」

「まだ私のパンチが当たってないでしょ・・・」

「判らないよはね、何でそこまで・・・」

「ここまでしなきゃ言えない事があってさ・・・へへ」

「フツーに言えばいいじゃない!何?」

「カッコ悪くてもう言えなくなっちゃった・・・頑張ったからもういい・・・」

はねの視界がフェードアウトした。

(言えなかった・・・貧乏神、ごめん)

 

        *

愛子の家から死神が出てきた。

「母親と父親は狩っちまった、まあ不可抗力だから上も許してくれるだろうけどよ・・・」

死神が辺りの様子を見る。

「問題はあの娘だな、生きる気でいやがる、死気が嗅ぎ取れねえ、片っ端から殺っちまうか!?」