《うるど》

「八重って言ってたかなぁ」貧乏神がてくてく歩き出した。

「八重ちゃんっていうの、いくつ?」少し走って、ねねは貧乏神の顔を覗き込んだ。

「18歳だ」

「お手手つないだ?」

「いや・・・」

「じゃ、ちゅーもしてないんだ・・・」

「「出来なかったな、さあ帰るか」

貧乏神が踵を返すと帰路を歩き始めた。

「ねえねえ」再度、ねねは貧乏神の前に出て顔を覗き込んだ。

「おまえがすきだー!」くらいは言ったんでしょ?

「言ってないな」

「根性なしー!」ねねは膨れる。

 

 

「・・・労咳(結核)で死んじまった」

「ロウガイ?」

「パソコンくらいあるだろ?」

「家に一台・・・」

「調べな」

てくてく貧乏神は歩く。

ねねは、貧乏神のフードを掴んで後をついて歩いた。

 

 

「びんぼーさん泣いてる?」

「涙腺ってもんが無いんで泣けねえんだ」

「じゃあ笑える?にっって」

「笑ったことはあるな」

「えー!笑って!」

「こうだろ?」

フードの奥の光っている眼の二つがへの字になる。

「笑ってる!」

 

ねね一行は、うるま一行と丁度帰りがいっしょになった。

「うるまお姉ちゃん!どうしたの!喧嘩?」

「いや・・・はねがボクササイズやってるって聞いたから行ったらガチでボクシングだった・・・」

息も絶え絶えにうるまは言った。

「ジムに入るなり、はねの姉妹です!同じコースにしてください!」は無いと思うよ?はねはうるまに肩を貸している。

「そりゃねえよな」

「あ!びんぼーさんがまた笑った!」

その夜

はねは昔のボクシングアニメのDVDを借りてきて、うるまとななに見せた。

「はねお姉ちゃん、怖いよぅ」

「だろ?ほらアッパー食らった」

スローモーションでマウスピースが吹き飛ぶ。

うるまも青い顔をして見ている。

ベチャッ

「はいマウスピースが落ちましたー」

「わーっ!」ねねが泣き出した。

うるまは呆然とそのシーンを見ていた。

 

「アホか、んなになるかよ」貧乏神は悪態をついた。

「はいそこドーン!」

はねは輪ゴムを指で飛ばした。

フードにピチッと当たり、「あうっ!」と貧乏神は声を出した。

「あれ?物理攻撃オッケーなの?」はねは意外そうな顔をしてそう言った。

「俺を見れる奴なら物理攻撃当たっちまうんだよ」

「ほほう」

 

「だからさ、何でもう一発打つ準備してんだよ、あとお前目が死んでるぞ」