「わたしはわたし」
「来たか北野、放課後に悪いな」
「いいえ斉藤先生・・・どうせお説教でしょうから」
―毒づいて私は教室に入った
そして教室の中よりも、その窓から遥か広がる雲に目を奪われたー
「北野?どうした?」
「わぁぁ!すみません!」
「お前はいっつも謝るな」
斉藤は笑いながら北野を愛くるしそうに見る。
「謝るのがクセなんですっ・・・で・・・やっぱり進路のお説教なんですか?」
斉藤の顔色を伺うように北野は横目でチラチラと見る。
「うーん、説教しても頭が良くなるわけ無いからなぁ、まあ座ったら?」
斉藤と北野しかいない放課後の教室、椅子を動かす音がズズズッと響く。
「なあ北野?」
「はい?」
「なんで職員室にしかクーラー無いんだろうな」
―斉藤先生は笑った
テストの点なんて人間を決めるモノじゃない
それが口癖だった
今、私のテストの答案をウチワ代わりにパタパタと顔を扇いでいる
先生は先生なんだ
私は「かわらないもの」を見て安堵感に包まれたー
「北野はボクササイズ部にいたんだってな」
「はい、ダイエットしたかったんで」
「そっか、私調べたんだけどさ」
「何をですか?」
「北野、あんた実戦やってみたら?強そうって意見多かったよ?」
「強そうってだけで実戦ですか!」
「うん、一週間後に体育館使って、ボクササイズ部で試合、良くない?強かったら進路もちょっと決まっちゃうかも?」
「は・・・ははは、はは」
北野は笑った。冷や汗をかきながら。
斉藤という教師は物事を決めてから本人に言う傾向があるからだ。
「まあ、それはやらなくてもいいんじゃ・・・」北野は言ってみた。
「ごめん、もう決めちゃった」
「あぁぁぁぁぁぁ!」北野は頭を抱え込んで椅子から落ちて悶絶をした。
何をどう話したか覚えていない。
北野は帰りに古本屋にフラリと入った。
ボクシング漫画がチラリと目に入る。
ドキドキしながら真ん中のあたりの巻を引き抜いて、パラパラと読んでみた。
強烈なパンチでライバルが死んでしまうシーンだった。
そのまま北野は硬直してしまった。
店主のおじいちゃんがヒョロヒョロと寄ってきた。
「お譲ちゃん、そろそろ店閉めたいんじゃが・・・それ買うの?」
「・・・どるやんけ」
「え?なんだって?」
「死んどるやんけ・・・」
「は?マンガの話かの?」
「死んどるやんけーーー!殴られてワイは死ぬんやー!」涙を流しながら北野がマンガを真っ二つに引き裂いた。
「あ、プレミアム漫画、それ2500円になりますワイ・・・ちょ・・・そんなことしてもくっつかないよ」
とぼとぼと、真っ二つになった漫画をカバンに入れて帰る北野。
「命もねえ♪金もねえ♪それにトドメに胸もねえ♪」むなしく北野が替え歌をエンドレスで歌い続けるのだった。