《わたしはわたし》

(なんてことはない、向こうのほうが強かった、それだけ)

北野はダウンしたまま青空を見ていた。

ふと奥田を見る。

虫でも見るような目をして北野を見ている。

(ん!一矢報いたい・・・かも)

一瞬気持ちに火が付いたかと思った。北野は立っていた。

(立っちゃった・・・どうしよ)

観客(生徒達)はこれで一気に盛り上がった。

「突っ込むしか無いでしょぉぉぉぉ!」北野はバタバタと奥田に突っ込んで行った。

「猪・・・」奥田はつぶやくと再度、北野の顔面にストレートを打ち込んだ。

さらに鼻血が花が咲くように飛び散った。

「ほーう」

新井が顎に手を当てて意外そうに言う。

「彼女、やっと女を捨てたよ?わかる?ケイコ・・・ちゃんだっけな」

「女を捨てた?」ケイコには何の事か判らない。

「まあそれより、背筋をまだ見れるのはうれしいな、相手の奥田選手より発達してる、夢に出そうな理想的な・・・」

北野は顔面を血だらけにしても倒れない。一発、一発を全身で受け止め、倒れない。

「そんなもん?あははははは」笑う口から血がダラーッと垂れる。

「くっ!」奥田が引いた。

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

グワッシャーン!漫画のような音がして北野のフックが奥田の顔面を捉えた。

(これかな?手ごたえって)北野は肉体面、精神面でそれを感じた。

奥田のマウスピースはブーメランのようにヒュルヒュル回転しながら血まみれで客席へ落ちていった。

そして奥田は

 

強烈なパンチをいきなり受けたせいで、あおむけにダウンしたまま手足をぴくぴく、微妙に痙攣させている。

「あ・・・やばかった?奥田さん?奥田さん!?」

声をかけるが、反応が無い。死んだ魚の目とはこういった状態を言うのだろう。