《わたしはわたし》

古本屋でプレミアム漫画を引き裂いた北野。

翌日は学校が休みだった。

―休日―

「あ〜あ、高3最後の夏、冴えないな」

北野はベッドに横になって呟いた。

チラチラと視線に、引き裂かれたボクシング漫画が入る。

「ボクシングの試合ってどんなのか見てみよう」

軽い気持ちでページをめくるが、徐々にページをめくる速さが遅くなり、どんどん北野の顔が青ざめて行く。

「アッパー強烈に痛そう・・・それに口からなんか飛んでる・・・歯が取れるのかな・・・」

そして破れたページに行き着くと、ハードな試合で選手が死んでいた。

「こんな事したら死人が出るよ・・・先生を止めなきゃ・・・」

北野はケータイを手に取る。

「待てよ?先生の番号知らないぞ?」

しばらく自分の馬鹿さぶりを味わった後

「バカバカバカ!」

自分の頭を叩いてベッドに倒れこんだ。

「そうだなぁ・・・スポーツショップに行ってみるかなぁ・・・ボクササイズ用品買ってたトコ」

ふんっ!と北野は起き上がり、服を着替えるとスポーツショップへ向かった。

 

―こういうパターンで人生を生きていく

        それが私なのだろうか?−

 

「大丈夫だよ、レイちゃん」

スポーツショップの店長は笑いながら北野に言った。

「安全のためにヘッドギアするに決まってるじゃん、これをこうかぶってさ!」

「何それ・・・洗脳マシン?」

「笑えないなぁ」苦笑いで店長は答える。

「それとさ、口から飛んだのは歯じゃない、これだよ」

「マウスピースっていうの?これだったの?」珍しそうに北野は裏表とマウスピースを観察する。

「お湯に漬けて自分の歯型に合わせて、口の中を守ってくれる防具の完成だ」

「へぇー、これだったのか・・・知らない事ばっかり」

「ハハハ、ルールブックを貸してあげるよ、レイちゃんがんばりなよ!」

結局、北野は何も買わずに本だけ借りて帰ることとなった。

(結局は私一人がギャーギャー騒いでただけで、大したこと無いのかもしれないな)

そう考えると北野の気持ちは軽くなる。

(第一、怪我なんかしちゃ学校も困るから、テキトーにポコポコパンチを打っておけばいいのだ、ニヒヒ)

たくさんのポジティブシンキングを抱えて北野は家に帰った。

ベッドの上に座る。

(でもなんか帰り道で考えてた事って、手抜きだったりズルだったり・・・私が一番なりたくない大人に向かってるのかな)

北野はうつむいている。

しばらくして

「考えるのやーめた!」自分一人しかいない部屋で独り言を言って台所へ行き、冷蔵庫を漁り始めた。

「ソーダアイス♪」ゲームで勇者が新しい剣を手に入れ、空に翳す。そのように北野はソーダアイスを空に翳した。

夕食を作っている母親は、北野の行動にまったく関心がないそぶりだった。

台所から出る時

「いいわね、あんたはノンキで」

母親の声がした。

北野はうなだれ、足を引きずるように自分の部屋へ向かった。

ソファはもう椅子がわりになっている、北野はこしかけてアイスを齧った。

その度にアイスが奥歯にしみる。

「なんか、何もかも中途半端だ・・・私」

閉まった窓の方を向いてポツリと呟いた。