《わたしはわたし》
「こ・・・こんなにキツいとは〜っ!」
背中にアサキが乗った状態で、北野は汗をポタポタ垂らしながら腕立て伏せをしている。
「やっと10?まだいけるっしょー♪」アサキも汗をかいているが、ただグラウンドが暑いからだ。
「10でいいでしょ・・・初日からこんなんじゃ・・・試合に出たときは筋肉痛で動けない・・・はがっ」
アサキが後ろから北野の両方の口の端を引っ張った。
「ほーら口は動く!もうちょっと頑張れ♪」
(やる事が80年代なんだよなぁ・・・アサキちゃんスポ魂すきそうだし)
「あと10やってみな♪」
「え〜」
「まあやってみなって、こっちもアンタの汗で気持ち悪いのガマンしてるんだから」
「はぁ・・・じゅう・・・いち・・・・・・じゅう・・・・に・・・」
そうこうしているうちに、広報部が又やってきた。
「北野さん!トレーニングもはかどっているようなんで、2〜3質問いいですか?」
女子生徒はリポーターのようにマイクを向けてきた。
「ぬぐぉぉぉぉ!」北野はありったけの力で起き上がった。
「あーらら」アサキが後ろへひっくりかえる。
「みず・・・みずをくだしゃい・・・」北野の訴えに、広報部の一人が水を取りに行った。
ひっくり返ったアサキを、カメラが撮影している。
「アサキ!アサキ!」ケイコがアサキをどついた。
「ん?なに?え?私撮影してる?」
「ブルマからハミパン!」ケイコに言われた。
アサキは「売ってやろうか?パンツ、キシシ」と撮影隊に言う。
「アサキさん、それじゃ学校で放送出来ませんよ、アクシデントで写ったみたいにしたのに!」
「それはそれ、これはこれだ、ほーら、もう放課後だから純白パンツが色つきに」
そこまで口にしたアサキは、強烈なケイコのツッコミパンチを食らってノビてしまった。
「カットね、ここカット」ケイコがハサミで切るようなしぐさを両手でチョキチョキとやった。
「は、はい、ここはさすがにカットですよね・・・ハハハ」
「帰ってオカズにするなよ?」そう言われてカメラマンは硬直した。
「はい水です!」
「ありがとう!みずだ・・・みずだ・・・」
急いで北野は水を飲み干した。
ブーッ!
急ぎすぎて器官に入ってリバース。
カメラに降りかかってしまった。
「うわぁ!部の一番高額なカメラがぁぁぁ!」カメラマンは慌ててる。
「これ、何てドリフ?」ケイコが冷たく言い放った。
帰りに筋肉痛になったからだを引きずるように北野は帰る。
「あいたたたた・・・本当にこれで強くなるんだろうか・・・」
ゆっくりと歩いていると、人にぶつかってしまった。
「あ・・・すみませ・・・」
相手は奥田だった。
「あ・・・」
「よ、北野さん」
「あ・・・ども」
「トレーニングでね、ちょっと走りこんでる途中、休んでたんだ」
「あ、そうなんだ、ハハハ、こっちは筋肉痛でたまらないよ・・・ハハハ」
「じゃあまた走りこむから、またね。試合で。」
「うん、お・・・お手柔らかにね・・・ハハハ」
「何・・・私の顔色伺ってんのよ」去り際に奥田はボソッと言った。
「え?」
奥田はもう走って行ってしまった。
―――何
私の顔色
伺ってんのよーーーー
北野は近くの木で出来た電信柱によりかかった。
胃がグルグルする。
頭もグルグルする。
―――何
私の顔色
伺ってんのよーーーー
ビチャッ・・・・
「あ・・・・」
北野は足元に嘔吐した。
「あ・・・はぁ、はぁ、はぁ」
(落ち着け!落ち着け!)
「うぶあっ!」
ビシャビシャッ・・・
「はぁ、はぁ、はぁ、」心臓の音がどっくんどっくん聞こえる。
自分の呼吸もどんどん早く・・・早く。
「た・・・す・・・け・・・」
「て」
そこで北野の意識は途絶えた。